印刷の際に、データで設定された数値より印刷物の色が濃く見えることがあります。
この原因の一つが、網点の「太り」である「ドットゲイン」です。刷版や印刷の工程で網点の大きさが変わることで、本来の濃度とは違って見えてしまうのです。
ドットゲインには「物理的ドットゲイン」と「光学的ドットゲイン」があります。
物理的ドットゲイン
物理的ドットゲインは、刷版やブランケットから紙にインクを転写する際に、インクが押しつぶされて外側に広がったものです。版の網点より印刷された網点が大きくなってしまうため、色が濃く見えます。
光学的ドットゲイン
光学的ドットゲインは、光の吸収や反射によって起こります。
印刷用紙に光が当たると、インクがのった部分の周りに後光のように微細な影ができます。これは紙に当たった光が内部で拡散されることによって生じるもので、インクの色が反映されます。この色のついた影により網点が大きく見えるのです。
また、インク部分の厚みが影になることで、本来の色より暗く見えることもあります。
ドットゲイン対策
ドットゲインを避けるには、印刷版を作る際に、あらかじめドットゲイン量を加算して網点を小さくしておく方法があります。
想定される網点の太りの割合(%)を「ドットゲイン値」と呼びます。
例えば、版では網点の大きさが50%、印刷で網点が太って60%になる場合、ドットゲイン値は10%です。なので、あらかじめ網点が10%太ることを想定して製版データを作成します。
厳密には、網点の%によって太り率が変わりますので、ISOやJapan Colorで基準として指定されている「ドットゲインカーブ」に応じたドットゲイン値を用います。
さらに様々な要素を考慮しながら印刷機ごとにキャリブレーションカーブを作成し、これを用いてデザインデータを製版データに変換します。
同じ印刷会社内の、同じメーカー、同じ型番の印刷機でも個々に特性があります。なので、それぞれの印刷機に合わせて適切なカーブを作る必要があります。
こうして作成した印刷機ごとのキャリブレーションカーブをリニアデータ(基準データ)として、出力メディアや季節・天候等に応じてカーブを微調整し、思い通りの刷り色が出るようにしていきます。
ちなみに、現在は製版データを直接版材(金属板)に出力するCTPが主流で、ドットゲインの調整は刷版前にコンピュータ上で行えます。
しかし以前は、フィルム(中間メディア)から金属板に写真現像の原理で焼き付ける工程が必要でした。この場合は、焼き付けの際の光の強さ(露光)を調整することで、網点の大きさを調整し、印刷した時の濃度をコントロールしていました。
網点を小さく(印刷色を薄く)したい時は、光を強めに当てて影を絞り、逆に網点を大きく(印刷色を濃く)したい時は、光を弱めに当てて影をぼかすという感じです。
ドットゲインはインクや紙の種類に左右されることが多く、粘度の低い(軟らかい)インクや、凹凸のある紙、表面がコーティングされておらずにじみやすい紙などで発生しやすいとされます。また、試し刷りなど少数の印刷より、大部数での印刷で出現しやすい傾向があります。
また、印刷機の状態にも左右されることがありますので、機械や部品のこまめなメンテナンスや調整も大切です。