印刷原稿やデザインデータを「版下」と呼びます。
弊社で担っている「製版」は、この版下をもとにして印刷版(印刷機の中でインクを紙に移す役割をするスタンプのようなもの)を作る工程です。
印刷方法や出力メディアによって、製版メディアは様々です。
現在、弊社で主に使っている製版用のメディアはサーマルプレートという金属製(アルミ)の板です。これは「CTP(Conputer To Plate)」用のメディアで、レーザーで図柄を焼き付ける方法で製版をします。主に平版オフセット印刷機で使われます。
サーマルプレートの他にはフィルムがあります。こちらも特殊な構造のフィルムにレーザーで図柄を焼き付けます。フィルムは、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷など、様々な印刷方法に対応できるメディアです。
色々な製版メディア
●平版印刷
2023年のNHK朝ドラ『らんまん』には、石版印刷(リトグラフ)を用いて雑誌を刷るシーンがありました。これは現在の平版印刷と同じ、油と水の反発を利用する印刷技法です。
石版印刷のメディアは文字通り石(石灰岩)です。時代を経るにつれてアルミや亜鉛などの金属板やゴム版も使われるようになります。
平らに磨いた石に油分を含んだ画材で直接描画し、薬品を塗布して描線を石に定着させます。版に水を含ませながら油性のインクをのせていくと、版面の油を含んだ描画部は水を弾きつつインクを吸着します。そのインクを紙に移すことで刷り上げます。
●凸版印刷
江戸時代に発達した浮世絵のメディアは木です。絵柄を色ごとに分けてそれぞれ版木を作り、同じ紙に順番に重ね刷りをしていきます。
これは現在の凸版印刷と同じ原理で、もっと身近なものでは印鑑やスタンプと同じです。インクをのせる部分が周囲より高くなるよう版木を彫り込み、浮き出たところにインクをのせて印刷します。
文字を主体とする活版印刷も凸版印刷の一種です。木製または金属製の一文字ごとの活字を並べてレイアウト(文字組み)を行い、その活字のグループを「活字版」として印刷機に組み込み印刷します。
フレキソ印刷はダンボールなどでよく使われる凸版印刷の一方式です。この印刷に使う版はゴムや樹脂などが使われますが、素材が柔らかいため凹凸のある出力メディアにも印刷しやすいメリットがあります。
箔押しやエンボス加工も凸版印刷の技法を応用したものですが、こうした加工用の版には、金属(銅、亜鉛、マグネシウムなど)や樹脂(ポリエステルなど)を使います。
●凹版印刷
凹版印刷の代表格はグラビア印刷です。この印刷方式では、シリンダー状にした金属板(素材は鉄やアルミ)に銅やクロムでメッキ加工を施し、メッキ部分を彫り込んで深浅のある極小のくぼみを作ります。
●孔版印刷
孔版印刷の代表的な手法であるスクリーン印刷では、製版メディアはシルクやナイロンなどでできたメッシュ(網目の布)です。
穴の開いた布に型紙を置いたり、布に薬剤を塗布してフィルムから描線を焼き付けたりしてメッシュの穴をふさぐことで、インクの着くところと着かないところを作ります。
現在ではあまり使われなくなりましたが、「ガリ版」とも呼ばれる「謄写版」も孔版印刷の一種です。この場合のメディアは蝋を引いた紙です。これを平らなヤスリの上に置いて、上から鉄筆などの硬い筆記具で文字などを書くと紙に細かな穴が開き、穴の開いた部分だけインクが通るようになります。
手書きで作るほか、タイプライターで原紙を打ち抜いて型紙を作る方法(活字孔版)などもあります。
製版メディアとしてのフィルム
写真が一般的になるにつれ、写真の技法が印刷に転用されるようになり、製版メディアとしてフィルムが使われるようになっていきます。ちなみに、弊社は写真製版業からスタートした会社です。
フィルムはそれ自体が版(スタンプ)になるわけではない「中間メディア」です。版下をフィルムに焼き付け、そのフィルムからさらに金属板やスクリーンに図柄を焼き付けて印刷版とします。
かつては写真と同じ銀塩フィルムが使われていましたが、感光しないよう暗室で作業を行わなければならなかったり、現像液などの薬剤を使うため環境や人体に良くない影響があったりと、扱いが難しかったため、現在ではあまり使われなくなりました。
現在の主流は薬剤を使わずレーザーで描画するドライタイプで、表面の遮光層を削り取るものや、フィルム内側の感熱層をレーザーで黒化させるものなどがあります。
製版メディア不要の印刷方式
弊社でも活躍しているインクジェットプリンターは、データから直接印刷できるため、製版メディアが不要です。(カーラッピングなど曲面や複雑な形状のものに印刷する場合は、転写紙など中間メディアを必要とすることもあります)
色再現に優れていて、色校正やオンデマンド印刷、小ロットの印刷よく用いられますが、逆に同じものを大量に刷る場合は、時間がかかったりコストが大きくなったりするデメリットもあります。
それぞれに個性や得意分野がありますので、様々な印刷方法やメディアを組み合わせると、印刷の幅は広がります。